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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)13号 判決

原告 郡司快一

被告 岩手県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三〇年七月三〇日なした原告の訴願を棄却するとの裁決を取消す。昭和三〇年四月三日執行された岩手県下閉伊郡山田町々長選挙は無効とする、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として。

一、原告は昭和三〇年四月三日施行された岩手県下閉伊郡山田町の町長及び町議会議員選挙における選挙人であるが、右町長選挙においては訴外佐藤善一、郡司機一及び豊間根隆の三名が立候補したところ、開票の結果同町選挙管理委員会は佐藤善一を当選者として郡司機一を次点者として決定した。そこで原告は昭和三〇年四月一六日同委員会に対し右選挙の効力に関し異議を申立てたが同年五月一四日却下されたので、同月三〇日被告に訴願したところ、同年七月三〇日棄却の裁決があつて同年八月四日裁決書の交付を受けたのである。

二、しかし右選挙における管理執行には左の違法がある。

(イ)  本件選挙における投票人数は一一、九七九名であるに拘らず、その投票総数は一一、九八二票存在したのであるから、投票人数より投票数は三票多いのである。右は正式に投票用紙の交付を受けた者以外の者が投票したものと認むべきであり、その選挙の管理執行に違法があるといわねばならない。

(ロ)  本件選挙における開票立会人は佐々木一郎、昆源策及び川村藤一の三名であつたが、開票の結果は前記のとおり三票の過剰を生じたものであるから、立会人佐々木一郎は選挙長稲川勝見に対し投票の再調査を申立てたところ、その容るるところとなり再び投票を点検したけれどもその結果も三票多かつた。而して立会人川村藤一は再調査の中途退場したので選挙長稲川勝見は爾余の立会人両名に対し三票の過剰票は選挙の結果に影響を及ぼさない故承認せられたい旨要望したのであつたが、立会人昆源策はそれを拒否して退場したので、右選挙会は成立していないのであるから当選の決定はなされなかつたものである。

然らば右選挙は無効であるというべきであるのにこれを有効とした訴外山田町選挙管理委員会の決定を容認した被告の裁決は違法であるからこれが裁決の取消及び選挙無効の判決を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

被告代表者は主文同旨の判決を求め、答弁として。

一、原告主張の一、の事実は争わない。

二、同二、の事実中(イ)の本件選挙における投票人数及び投票総数が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する、右投票人数と投票数との不一致は町長選挙の投票函に同時に行われた町議会議員選挙の投票をした者があつたからであつて、この事実は各候補者の得票数計算には影響するが、選挙の無効原因たり得ないものである。(ロ)の事実は否認する、原告は選挙録の朗読、署名等の手続がとられない限り選挙会は終了しないものゝ如く考えているようであるが、当選人を決定したこと自体選挙会は終了したことを表明するものである。然らば原告の本訴請求は失当として棄却せらるべきであると述べた。(証拠省略)

理由

原告主張の一、の事実は当事者間に争がない。

よつて同二、の事実につき審究するに。

一、原告主張の(イ)の事実は要するに、投票人数が一一、九七九名であるのに開票の結果投票総数は一一、九八二票存在したのであるから、その差三票は無権利者又は不法投票者によつてなされた投票に帰着し、かゝる投票の混入は選挙の管理遂行に違法があるというのであるが、弁論の全趣旨を綜合すれば、本件選挙は同町議会議員選挙と同時に行われた為投票録記載の投票人数と投票総数とに三票の誤差を生じたものであつて其の間不正行為が行われた形跡はないことが認められるのみならず、たとい選挙権のない者又は不法投票者が投票したとしても、かゝる違法は選挙人の違法行為であつて選挙執行機関の選挙の管理執行に関する規定違背ではないのであるから、その投票は帰属不明の無効投票即ち潜在的無効投票として単に当選の無効事由たるに止まり選挙無効の事由とはならない(最高裁判所昭和二八年(オ)第一〇二九号昭和二九年九月一七日第二小法廷判決参照)ものというべきである。従つて本件におけるが如く選挙の効力に関する訴訟において主張し得べきものではない。

二、同(ロ)について、

証人稲川勝見、川村藤一、川村享平、沼崎与平、武藤甚平及び佐々木一郎(一部)の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、本件選挙における選挙会は昭和三〇年四月四日開票立会人佐々木一郎、昆源策、川村藤一等全員参加の下に開かれたのであるが開会後選挙長は投票を点検し投票の有効、無効を選別した後各立候補者の有効得票数を計算した結果、訴外佐藤善一において最多数の投票を得たものとして同人を当選人と決定発表したところ、その直後投票人数と投票総数との間に差異があることを理由に再調査を要求する者があつたので、選挙長は更に投票の再点検をなすに至つたのであるが、開票立会人川村藤一、昆源策が退場したのは再調査施行中であることが認められる。甲第一号証(昆源策の手記)証人佐々木一郎、昆源策の証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。してみれば選挙長の当選人発表により選挙会は終了したものというべきであつて再調査以後の手続の不備は毫も前示選挙長の決定に影響を及ぼさないものというべきであるから選挙会が成立しないとする原告の主張は採用することはできない。

以上の次第で被告のした前記裁決は正当であるから、これが取消及び本件選挙の無効宣言を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤規矩三 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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